ベートーヴェンのピアノで『エリーゼのために』は弾けない!?
ベートーヴェン(1770~1827)は生涯に3台のピアノを所蔵したようです。
初期1782~1802年頃
ウィーン ヴァルター製(61鍵 1F~f3)
中期1803~1816年頃
フランス エラール製(68鍵 1F~c4)
後期1818~1823年頃
ロンドン ブロードウッド製(73鍵 1C~c4)
1805年に書いた熱情ソナタはベートーヴェン自身が最高のソナタとみなしていました。
その頃に所蔵したピアノはエラール製のようですが、音量はあっても音色があまり気に入らなかったようで、ナネッテ・シュトライヒャーのピアノ(F1~f4)を気に入っていたようです。
この辺りに、ウィーン式アクション(シュトライヒャーなど)とイギリス式アクション(エラールやブロードウッドや今のピアノ)の違いが出ているのかもしれません。
その後、1809年に皇帝協奏曲を書きますが、最高音はf4。
1810年に書いたエリーゼのためにの最高音はe4。
所蔵のエラールの最高音はc4ですから、弾けません。
ナネッテ・シュトライヒャーのピアノのための曲のようにみえます。
その後、1818年にハンマークラヴィーアを書きますが、この音域がC1~f4。
当時に贈呈されたブロードウッドでは高音域が、お気に入りのナネッテ・シュトライヒャーでは低音域が足りません。
ボンのベートーヴェンハウスにあるコンラート・グラーフ製ピアノはC1~f4で弾ける音域ですが、ベートーヴェンに貸し出されたのは1826年のようです。
1818年、ハンマークラヴィ―アは、どのピアノで演奏されたのでしょうか?
ウナコルダ
イタリア語でコルダが弦、ウーノが1、トレが3。
グランドピアノは左ペダルを踏むと鍵盤が右にシフトします。
ただ、実際にはハンマーが3本の弦を打っていたのが1本の弦だけを打つようになるわけではなく、打弦点を変えて音色を変化させることを主に目的としています。
シフトペダルの運動量は簡単に調整出来ますから、調律の際にはお気軽にお申し付け下さい。
ちなみに、ベートーヴェン月光の1楽章はセンプレピアニッシモ・エ・センツァソルディーノです。
センプレが常に、エがand、センツァがなしに、ソルディーノは弱音器。
しかし左のシフトペダルを踏まないでピアニッシモで弾くという意味ではなく、ここでのソルディーノとはダンパーのことです。
ダンパーは弱音器というか止音器ですが。
ダンパーなしにだから、止音なし、右のダンパーペダルを踏みっぱなしという意味です。
ベートーヴェンの時代のピアノは今のピアノと違って、音の減衰が速かったから、踏みっぱなしでも大丈夫だったようです。
以上、受け売り豆知識でした。
言語的隠蔽
世界的ソムリエはワインのイメージや感覚をすぐに言語化しないという話があります。
あえて言葉にしない方が、正しく認識出来るからのようです。
仕事柄いろんなピアノと出合うことがありますが、たしかに言葉はなかなか不自由なものだと思います。
硬い柔らかい、派手地味、明るい暗い、音が出る出ない、ありきたりの言葉ばかりが当てはめられてしまいます。
ほんとうに感じたものは、より複雑精緻、深くて繊細なのではないかと思います。
言葉にしていまうのは、とらえどころのない何かをデジタルに情報化してしまう、単純化してしまうことだと思います。
とは言っても言語化すれば、わかりやすく人に伝えることが出来るわけで、諸刃の剣なのかもしれません。