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ヴェルクマイスターⅢ始めました!

 

ピアノの調律は平均律なので狂った音、純正律が良い調律であると聞くことがあります。

日本はピアノの歴史が浅く、古典調律の歴史がポピュラーでないので逆にやたらと平均律を疑う傾向があるようです。

調律には調律の五度圏図があって12音階の配分表ですが、全ての5度が純正になることは原理的にありえません。
純正があれば、そのしわ寄せがどこかにあります。
しわ寄せをどう配分すべきか、古来から音律理論家により試行錯誤されています。

私の知るところ、純正律は紀元前5年頃プトレマイオスによる、純正5度(ピタゴラスの5度)を重ねていって、D-A間にシワを集中して極端に狭くしたものと、もう1つは1482年ラミスの純正律で純正5度を重ねてGis-Cis間が平均律の5度、あとはG-D間を極端に狭くしたものがあります。
たとえ転調をしない曲だとしても、かなりキビシイ和音があります。
どちらも実用的でないので、ほぼ使われていないと思います。

実は古典調律はかなりの種類がありますが、有名で実用的なのはヴェルクマイスターⅢ(1691)とキルンベルガーⅢ(1780)です。
ミーントーンも有名ですが、gis-cis間Aが極端に広かったり、長三度を純正にするといいますが、純正長三度を3つ重ねたオクターブは極端に狭いオクターブにしかなりえません。純正長三度のしわ寄せは必ず他の長三度に集まります。
私には今一つ解せない調律法です。

今のモダンピアノには、平均律しかしっくりこないと思っていましたが、古典調律もだいぶ有名になっているようですので、ヴェルクマイスターⅢから自分のピアノを実験台にしてやってみました。
普段、平均律調律ばかりやっていると、調律的にはかなりの違和感ですが、曲を弾いてみるとなかなか陰影に富み、奥行きのある感じ、和音の響きの違いを感じやすく、どこかレトロな感じがすると思いました。

純正でウナリのない和音と残りのしわ寄せでウナリがギュッと多く集まった所のメリハリが味になっているのだと思います。

平均律は狂っているように言われることが多いようですが、他の古典調律と比べ最も矛盾のないキレイな調律で、キレイに揃い過ぎているのが機械的な印象をあたえ、逆に味気ないとみえるのかもしれません。


私的にはヴェルクマイスターⅢも悪くはないし面白いと思います。

調律法は慣れないだけで平均律より簡単だと思います。

ただ、慣れないものはやはり大変で時間もかかりがちです。

ご依頼いただく場合は、個人所有のピアノに限りますが、ヴェルクマイスターⅢもしくはキルンベルガーⅢを+2000円で承ります!

時代

 

2008年にリーマン・ショックが起こったとき、1929年恐慌を連想しました。
現代を1930年代、第二次大戦前と比べる見方が根強くあります。
しかし、1990年米ソ冷戦以降、アメリカ覇権が終わりつつある時代は、むしろ1870年頃からの時代に似ているという見方があります。

1870年からはイギリスの世界覇権が終わり、覇権国がない時代。イギリスは製造部門で後退し、1870年以後、重工業の部門で、次の覇権国を狙うドイツやアメリカに遅れをとったようです。
イギリスは産業資本に投資するより、海外投資や金融投機に向かいました。
今のアメリカの資本に似ています。

ピアノの歴史はどうでしょう?

1867年のパリ万国博覧会ではスタインウェイとチッカリングが金賞を取り、競争関係であったようです。
その頃からヨーロッパでスタインウェイが最高であるというようになり、スタインウェイ・システムは、世界中のピアノ・メーカーを評価するための新しい基準となったといいます。

スタインウェイ・システムの主な開発者はヘンリー・ジュニア(創業者三男)です。

当時の最も偉大なピアノ製作者ヘンリーは1865年亡くなり、同年にチャールズ(創業者二男)も亡くなります。
1871年にはスタインウェイ創業者ハインリッヒ・スタインヴェクが亡くなっています。

その後、スタインウェイビジネスを拡大したのはウィリアム(創業者四男)です。

1872年にはリストの後継者といわれるロシアのアントン・ルビンシュタインを援助したりしています。
その後のラフマニノフやホロヴッツ、スタインウェイアーティストの先駆けと言えると思います。


イギリス覇権が終わる1870年頃が、ピアノの歴史もターニングポイントなのかもしれません。


第一次大戦以降はアメリカ覇権の時代。芸術様式はアールデコが流行りますが、19世紀後半には、アールヌーボーが流行っています。

アールヌーボーからアールデコ両時代に活躍したルネ・ラリック(1860~1945年)の会社は、スタインウェイのアートケースをデザインしております。

まさに時代の鏡のようなピアノだと思いました。
 
 
参考文献
『憲法の無意識』 柄谷行人 著
『スタインウェイ物語』 R.K.リーバーマン 著
 

サウンド・ベル?

 

スタインウェイの類いまれなる高音の輝きはサウンド・ベルによるものである・・・と世間一般には、まことしやかに知られているようですし、私自身そのように思っておりました。

スタインウェイのセミナーで知りましたが、サウンドベルと言っているのは日本だけで本来はトレブル・ベル(高音のベル)というのが正しいそうです。

また、いわゆるサウンドベルが鉄骨の響きと共鳴して支柱に伝え、高音の輝かしい響きを増幅する云々は違った話で、本当は高音部の鉄骨が浮き上がってくるのを押さえるためです。

更にまた、いわゆるサウンドベルが付いているのは、支柱の構造によりA型より大きなものだけ。
と言って、O型より小さいモデルがスタインウェイの音がしないわけでは、もちろんありません。


なかなか極東の島国には、西洋文物の正しい情報が伝わりにくい、と不勉強を棚に上げて言ってみたいところですが、ここまでネットが発達している今日この頃、古くなったセリフなのかもしれません。
調べればすぐにわかるものをすぐに調べないところに原因があるので御座います。
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