木
飛鳥時代に役小角により開山された大峰山の山伏が装着するものが、球形の房に似るところからくる鈴懸の木、ギリシャ語由来でプラタナス。
アケメネス朝ペルシャ王ダレイオス1世の息子クセルクセスが、プラタナスを情的に讃えた歌がオンブラ・マイ・フ。
史実のクセルクセスは残虐なようですが、同一人物とされる旧約聖書のアハシュロスは神のみこころの話。
鍵盤楽器と縁深い、木に精霊が宿るかの様なのが面白い。
漱石『夢十夜』第六夜に「明治の木には到底仁王は埋まっていない」と名セリフがありますが、時代が進むにつれ良質な木は減っているのかもしれません。
古い楽器が必ずしも良いわけではないと思いますが、今ある楽器を大切にしたいものです。
ピアノの歴史
調律師になろうとすると、最初にピアノの歴史を教わります。
話だけだとなかなかイメージしにくいですが、サブスク時代になって聴きやすくなりました。
ピアノ以前でクラヴィコードの話がありますが、アンドラ―シュ・シフのバッハ演奏が最近出ました。
クリストフォリはリンダ・ニコルソンやルカ・グリエルミの演奏など。
クリストフォリ後継者のジルバーマンの楽器は「タッチが重く弾きずらく、高音域が弱い」とJ・S・バッハの感想、その後に改良をかさねて賞賛を得たとのことですが、トビー・Sermeusの演奏がありました。
それから、イギリスと南ドイツに分かれます。
イギリスは広葉樹が多く、南ドイツやウィーンは針葉樹が多い楽器造りで、アクション構造も異なります。
南ドイツ系のナネッテ・シュトライヒャーのフォルテピアノはイネス・シュッテングル―バーの演奏がありました。
イギリス系はブロードウッドが有名ですが、シフやパウル・バドゥラ・スコダのベートーヴェン演奏があります。
スコダはベートーヴェン全ソナタをコンラート・グラーフ(1824年製ウィーン)、ブロードウッド(1796年製ロンドン)、アントン・ヴァルター(1790年製ウィーン)など弾き分けています。
ショパンが好んだプレイエルはアラン・プラネス(1836年pleyel)やイヴ・アンリ(1837年pleyel)の演奏。
リストの好みはエラールで、1852年製のアルバムがあります。
あとエラールは、1897年製でJ・V・インマゼールのドビュッシー。
1853年にカール・べヒシュタイン、ユリウス・ブリュートナー、スタインウェイ&サンズが創業。
この年には当時のアメリカでナンバーワンのピアノ会社、ボストンのジョナス・チッカリングも工場を新しくした。
ブダペストのリスト記念館にはチッカリング&サンズがあるようですが、こちらもアルバムあり。
リストは何台も所有していました。E・キーシンが愛の夢を、オリジナルのべヒシュタインで弾いてる動画もあります。
べヒはクリアで透明、重厚というより重層的な音質なのが、よくわかります。
アラン・プラネスはドビュッシーピアノ全集で、べヒシュタイン(1897年製)、ブリュートナー(1902年製)、スタインウェイを弾き分けてます。
少しずつモダンピアノに近くなるとともに進化しながら、失われていったものもあると思います。
ヴァロッティ
結局、キルンベルガーからヴェルクマイスターⅢに戻しましたが、私にはgis-c,cis-f,fis-b長3度がキツ過ぎて堪えがたく、今度はアントーニオ・ヴァロッティ(1697~1780)音律にしました。
モーツァルト時代、2本弦フォルテピアノなどに使われていたとのこと。
6つの純正と6つの5度1/6。
1754年の音律は
f-c-g-d-a-e-h は、1/6の5度。
h-fis-cis-gis-es-b-f は純正。
キルンベルガーより古い年代ですが、1/6なので平均律に近くなっています。
1/6は平均律のウナリ2倍です。
いくつか試してみて気付いたのは、下属調側5度に純正がある音律が多いこと。
ヴァロッティも同様です。
ここまでは資料通りですが、大切なのは実際にやってみることです。
弾いてみた印象は平均律と比べ、霞みかかって仄暗い雰囲気でした。
古典調律を比べるとき、各音律の典型的3度を比較することがあるようですが、実際には堪えがたくキツい長3度が目立ちます。
ヴァロッティはf-cis,fis-b,h-esの長3度が目立ちます。
3つとも純正5度を4つ重ねた長3度ですが、ウナリがキツ過ぎます。
純正5度の場所を集中させずに分散したほうが3度が良くなると私は思いましたが、そのような古典調律は見当たりません。
4度5度より3度のほうが、演奏に与える影響が大きいと私は思います。