Cyborg
同サイズのピアノでも重さが違うのは鉄骨ではなく、木の重さの違いによるといいます。大雑把ではありますが。
重厚長大に進化してきたピアノですが、その主な担い手メーカーのものはサイズのわりに重量が軽かったりします。
アクション部品は大抵が木製でしたが、近年はプラスチック製も増えました。
木と比べて温湿度のよる変化がなくて良さそうですが、未だ残る天然部品との兼ね合いが大切でしょうか。
木製より軽い素材なので、タッチ感、更には音の感じも軽い印象です。
人類はいずれ肉体を離れていく、その前段階としてサイボーグ化していくとの説。
プラスチック製アクションにはどことなく、そんな雰囲気を私は感じます。
黄金時代のピアノもよいですが、進化は良くも悪くも止まりません。
重厚長大に進化してきたピアノの歴史が反復回帰するかのように、風通し良く自由でパーソナルな未来になるのかもしれません。
木
飛鳥時代に役小角により開山された大峰山の山伏が装着するものが、球形の房に似るところからくる鈴懸の木、ギリシャ語由来でプラタナス。
アケメネス朝ペルシャ王ダレイオス1世の息子クセルクセスが、プラタナスを情的に讃えた歌がオンブラ・マイ・フ。
史実のクセルクセスは残虐なようですが、同一人物とされる旧約聖書のアハシュロスは神のみこころの話。
鍵盤楽器と縁深い、木に精霊が宿るかの様なのが面白い。
漱石『夢十夜』第六夜に「明治の木には到底仁王は埋まっていない」と名セリフがありますが、時代が進むにつれ良質な木は減っているのかもしれません。
古い楽器が必ずしも良いわけではないと思いますが、今ある楽器を大切にしたいものです。
ピアノの歴史
調律師になろうとすると、最初にピアノの歴史を教わります。
話だけだとなかなかイメージしにくいですが、サブスク時代になって聴きやすくなりました。
ピアノ以前でクラヴィコードの話がありますが、アンドラ―シュ・シフのバッハ演奏が最近出ました。
クリストフォリはリンダ・ニコルソンやルカ・グリエルミの演奏など。
クリストフォリ後継者のジルバーマンの楽器は「タッチが重く弾きずらく、高音域が弱い」とJ・S・バッハの感想、その後に改良をかさねて賞賛を得たとのことですが、トビー・Sermeusの演奏がありました。
それから、イギリスと南ドイツに分かれます。
イギリスは広葉樹が多く、南ドイツやウィーンは針葉樹が多い楽器造りで、アクション構造も異なります。
南ドイツ系のナネッテ・シュトライヒャーのフォルテピアノはイネス・シュッテングル―バーの演奏がありました。
イギリス系はブロードウッドが有名ですが、シフやパウル・バドゥラ・スコダのベートーヴェン演奏があります。
スコダはベートーヴェン全ソナタをコンラート・グラーフ(1824年製ウィーン)、ブロードウッド(1796年製ロンドン)、アントン・ヴァルター(1790年製ウィーン)など弾き分けています。
ショパンが好んだプレイエルはアラン・プラネス(1836年pleyel)やイヴ・アンリ(1837年pleyel)の演奏。
リストの好みはエラールで、1852年製のアルバムがあります。
あとエラールは、1897年製でJ・V・インマゼールのドビュッシー。
1853年にカール・べヒシュタイン、ユリウス・ブリュートナー、スタインウェイ&サンズが創業。
この年には当時のアメリカでナンバーワンのピアノ会社、ボストンのジョナス・チッカリングも工場を新しくした。
ブダペストのリスト記念館にはチッカリング&サンズがあるようですが、こちらもアルバムあり。
リストは何台も所有していました。E・キーシンが愛の夢を、オリジナルのべヒシュタインで弾いてる動画もあります。
べヒはクリアで透明、重厚というより重層的な音質なのが、よくわかります。
アラン・プラネスはドビュッシーピアノ全集で、べヒシュタイン(1897年製)、ブリュートナー(1902年製)、スタインウェイを弾き分けてます。
少しずつモダンピアノに近くなるとともに進化しながら、失われていったものもあると思います。