美しい空虚
京都に住み、睡眠薬濫用で危ういときに執筆された『古都』は旅行前に読んでおくべきでした。
絶望的な状況の夢想は明晰で、限りなく優美に燦爛する。
ダイアローグに物語る谷崎にくらべ、モノローグで和歌的な川端。
最近、「The Real Chopin」という古楽器による全集を聴きました。
ダイアローグなベートーヴェン?よりモノローグなショパン?の方がピリオド楽器の、音圧なく濁らず透明な響きに合うように思いました。
どうにもならないときの作品ほど。
「傍に眠っていましたとき、あなたの夢をみたことはありませんでした」
作品と状況は残酷に対比する、愛と悲劇も。
鉄とステンレス
太陽や他の天体にも豊富にあり、地球の地殻の約5%を占める鉄。
男の料理好きなら、一度は中華鍋を手にしたがる人が多いかと思います。
私も若い頃に、わざわざ購入して遊びました。
最近は、ステンレスのフライパンが健康に良いとの話を聞き使ってみましたが、やたらと引っ付く。
とてもじゃないが使えないと思って調べてみたら、中華鍋と同じで空焼きしてからが基本。
それを知ってからは使いやすくなり、かなりの優れもの!専ら使用しています。
熱処理といえば、スタインウェイの鉄骨は他メーカーと比べて低音の鋳物なので、錆びやすいが音は良いと聞きます。
チューニングハンマーでは、シャフト部を鉄とステンレスで比較してみました。
鉄は叩けばキーンと鳴りますがステンレスは鳴らない。それが調律にも影響して、かなり微妙ですが華やかな音になる印象が私にはありました。材質の違いを人が敏感に感知して、そう調律するのかもしれません。
印象論だけでなく、物理的に音質測定してみたいものですが。
それにしても料理と楽器、音楽は近いところにありそうです。
希望
今現在充実しているときに希望なんて言葉、思いつきもしない。希望という言葉を発するときは不満や絶望がある。「砂の女(4) 100分で名著から」
芥川賞作品は文藝春秋ならインタビューや選考委員のコメント付きだけど、単行本は読みやすくて先行販売。迷うところです。
私が今まで読んだのは、『岬』『限りなく透明に近いブルー』『蛇を踏む』『蛇にピアス』『インストール』『土の中の子供』『乳と卵』『スクラップ・アンド・ビルド』『爪と目』『コンビニ人間』『紫のスカートの女』『おいしいごはんが食べられますように』程度です。
全体にスッキリ気持ちよくというよりは、何ともいえないものを抱えながら現代を生きてみての読後感。
短編でさっと読めるようで消化しにくい。同じ文豪でも賞作品はわりととらえにくく、凝縮して謎めいている。
暗部をみない明るさで装いその場かぎりになるのでなく不満や絶望に直面し、探し宛て行き着いた節目で脱け出したばかりのところが結末で、絶望の向こうは爽やかだけど希望というほどには先行きがない。
ピアノ業界も一見行き詰まっているようでいて、次の時代に突入しているのかもしれません。