ヴァロッティ
結局、キルンベルガーからヴェルクマイスターⅢに戻しましたが、私にはgis-c,cis-f,fis-b長3度がキツ過ぎて堪えがたく、今度はアントーニオ・ヴァロッティ(1697~1780)音律にしました。
モーツァルト時代、2本弦フォルテピアノなどに使われていたとのこと。
6つの純正と6つの5度1/6。
1754年の音律は
f-c-g-d-a-e-h は、1/6の5度。
h-fis-cis-gis-es-b-f は純正。
キルンベルガーより古い年代ですが、1/6なので平均律に近くなっています。
1/6は平均律のウナリ2倍です。
いくつか試してみて気付いたのは、下属調側5度に純正がある音律が多いこと。
ヴァロッティも同様です。
ここまでは資料通りですが、大切なのは実際にやってみることです。
弾いてみた印象は平均律と比べ、霞みかかって仄暗い雰囲気でした。
古典調律を比べるとき、各音律の典型的3度を比較することがあるようですが、実際には堪えがたくキツい長3度が目立ちます。
ヴァロッティはf-cis,fis-b,h-esの長3度が目立ちます。
3つとも純正5度を4つ重ねた長3度ですが、ウナリがキツ過ぎます。
純正5度の場所を集中させずに分散したほうが3度が良くなると私は思いましたが、そのような古典調律は見当たりません。
4度5度より3度のほうが、演奏に与える影響が大きいと私は思います。
1/4
モーツアルト晩年~ベートーヴェン時代には、キルンベルガー音律が使われていたと言われているようです。
ⅠとⅡとⅢがあり、私資料にあるのはⅢ。
ヴェルクマイスターⅢと同じで、8個の純正5度と1/4の5度が4個ですが場所が違います。
具体的には
c-g 1/4,g-d 1/4,d-a 1/4,a-e 1/4,e-h 純正,h-fis 純正,fis-cis 純正,cis-gis 純正,gis-es 純正,es-b 純正,b-f 純正,f-c 純正,
です。
5度圏の♯系属調側に1/4が集中しています。
ヴェルクマイスターⅢとの違いは、a-eとh-fisです。
というわけで、机上の論なら調律教科書にあるような話ですが、やってみるのが大切です。
c-g-d-a-eは1/4狭い5度が4個。
足し算で1になるので、c-eは純正長3度。
純正が多い分、ヴェルクマイスターⅢより少し調律しやすいです。
平均律5度は1/12で、ヴェルクマイスターとキルンベルガーの5度は1/4なので、平均律5度のウナリ3倍です。
合唱などのハーモニーは、そのつど純正と言いますが、平均率ではオクターブしか純正が聴けません。
キルンベルガーⅢだと、3度4度5度の純正を聴けます。
しかし弾いてみた感じは色彩豊かですが、私には違和感がありました。
1/4を集中させて長3度を純正にした反動かもしれません。
1/4系ではヴェルクマイスターⅢが何とか許容範囲なのかも?と私は思いましたが、感じ方は人それぞれで曲にもよります。
5度1/4の場所が違うだけで、だいぶ違う印象でした。
何事もやってみなければ、わかりません。
通常は平均律をおすすめ致します。
ヴェルクマイスター
アンドレアス・ヴェルクマイスター(1645-1706)はドイツのオルガ二ストで理論家。
スカルラッティなどもヴェルクマイスター音律だったのではないかと言われているようです。
平均律は狭い5度を1/12ずつ割振っていますが、ヴェルクマイスターは純正5度が8個と1/4狭い5度が4個。
長3度は所々バラつきますが、ミーントーンほど極端な3度ではありません。
平均律と比べれば、濁った5度が4つありますが聴くに堪えないほどではないと思います。
具体的にヴェルクマイスターⅢ(1691)の5度は
c-g 1/4,g-d 1/4,d-a 1/4,a-e 純正,e-h 純正,h-fis 1/4,fis-cis 純正,cis-gis 純正,gis-es 純正,es-b 純正,b-f 純正,f-c 純正,
となります。
自分のピアノでミーントーン調律をやってみたら、あまりに酷くて弾くに堪えないので、ヴェルクマイスターⅢにしました。
いつまでたっても弾けなくて人前では弾けませんが、ショパンop10-12、op25-1、シューマンのアラベスク、リスト愛の夢など試しに弾いてはみました。
平均律に慣れきった調律師の耳で聴くと違和感ありますが、実際に弾いてみると陰影がつけやすく立体感があるようで、かなりいい感じです。
平均律は3度が揃ってるのがつまらなく、バラつきのある方が良いというピアニストもいらっしゃるようです。