理想
とうに弾かなくなった古いアップライトが残っているので、a1の有効弦長を測ってみたら425㎜でした。
「a1のインハーモニスティーは0.5~0.6セントの間に存在すべきである。0.5セントのとき、響きはやわらかく、歌うようである。0.6セントのとき、響きは鋭く、かたくなる。」と、ドイツの教科書に書かれています。
私のグランドのa1は弦長410㎜なので標準ですが、アップライトの425㎜は長過ぎなのでインハモは低すぎます。
弦の太さで調整出来るかというと、インハモは弦の太さの2乗に比例、弦の長さの4乗に反比例するわけですから、弦長が最も影響します。
2台近くにあって、弦をチッピングしてみると音の違いがわかります。
ドイツ教科書の通りでないイレギュラーなピアノは、それなりに多くあると思いますが、無理に理想通りにするのでなくオリジナルを尊重するのも大切かと思います。
ピアノの平均律
a1=440と言うものの、実際の調律音程をつくるには、a1ではなくa=220から始めます。
大抵の人はf-e1間でつくると思います。
私はa-d1-g-c1-f-b-dis1-gis-cis1-fis-h-e1の順にやります。
まず、a-d1間の4度ですが、純正4度は4:3の比率なので、
aの4倍音がa2=880
平均律だとd1=293.67
a2=293.67×3=881.01
881.01-880=1.01
1秒間に1.01のウナリが出るということです。
ここまでなら、それほど難しくない計算で済むのですが、インハーモニスティーが絡んでくるので、実際はややこしくなります。
a=220、弦長773㎜、弦直径1.025㎜とするなら、
3.3×10の15乗×1.025の2乗÷773の4乗÷220の2乗=0.2006311365セントが第1倍音のインハモ。
aの第4倍音を計算するには、
2×4の2乗=32
0.20×32の平方根=1.13137085セントが第4倍音のインハモ。
220×4×2の1200乗根の1.13137085乗=880.5752727
a2=880.5752727ヘルツ。
平均律d1=293.67、弦長594㎜、弦直径1.000㎜とするなら、
3.3×10の15乗×1.0の2乗÷594の4乗÷293.67の2乗=0.30761164セントがd1第1倍音のインハモ。
d1の第3倍音は、
2×3の2乗=18
第1倍音インハモ0.30×18の平方根=1.272792206セントがd1第3倍音のインハモ。
293.67×3×2の1200乗根の1.272792206乗=881.6579511
a2=881.6579511ヘルツ
881.6579511-880.5752727=1.0826784ヘルツ
インハーモニスティーを考慮したa-d1間は、
1秒間に1.08のウナリが出るということでした。
インハーモニスティー
ピアノ技術者ならインハーモニスティーのことは周知のようにみえますが、計算式は難しく、更に値はセント値になります。
セント値は多少性能いいデジタルチューナーで出てきますが、ヘルツに換算するやり方は理解されていなように思います。
以前にも書いたのですが、割り算であるはずがないのです。
オクターブ1200セントで平均律半音間100セントであるなら、
(880-440)÷1200=0.366
平均律a=440で、h=466.16。
(466.16-440)÷100=0.2616
すでに矛盾しています。
やはり、2の1200乗根と考えるのが正しいかと私は思います。
2の12乗根の更に100乗根と値が一致します。
インハーモニスティーの計算は、弦の材質からくる値3.3×10の15乗×弦直径の2乗÷弦長の4乗÷周波数ヘルツの2乗。
出てきた値はセント値。
よくあるのが440ヘルツ、弦長412㎜、弦直径0.975㎜。
3.3×10の15乗×0.975÷412の4乗÷440の2乗=0.5767987871セント。
この値は第1倍音のインハーモニスティーです。
それでは、第2倍音のインハーモニスティーはというと、8の平方根を掛けるという。
オクターブは周波数×2。
インハーモニスティーは2の2乗なので2×4で8とのこと。
0.5767987871×8の平方根=1.631433335
インハモを考慮した第1倍音のピッチは、
440×2の1200乗根の0.5767987871乗=440.1448916
a=440.1448916ヘルツとします。
インハモを考慮した第2倍音のピッチは、
880×2の1200乗根の1.631433335乗=880.8296614
a1=880.8296614ヘルツ。
880.8296614-440.1448916×2=0.5398781609
aの1音だけで、第1倍音と第2倍音の差が0.539ヘルツもありました。
和音どころか、1音だけで既にインハーモニ―ということです。